亀頭包皮炎とは
亀頭包皮炎(きとうほうひえん)とは、名前のとおり陰茎の亀頭部と包皮部に炎症が起こってしまう病気です。
陰茎に発生することからわかるように、男児及び男性特有の病気です。
また、亀頭包皮炎は包茎の人がかかりやすい病気です。
その理由は、包茎の人は亀頭が包皮に覆われており、恥垢(ちこう)とよばれる垢がたまりやすくなるからです。
恥垢の中身は亀頭や包皮表面の粘膜細胞の死骸や脂腺の分泌物、尿などです。
陰茎内で恥垢が排出されずに長期にわたり残存・堆積すると細菌やカビが恥垢を食べて増殖していきます。
ましてや包茎は亀頭と包皮裏側の粘膜が密着した状態で閉ざされ、多湿状態になっています。
ここで菌が繁殖を続け、亀頭・包皮の細胞組織にまで入り込んでいき、炎症を起こす疾患が亀頭包皮炎なのです。
亀頭包皮炎の症状
亀頭包皮炎が進行すると、亀頭や包皮が赤く腫れたり、痛みやかゆみが出ることがあります。
また、ただれたり膿が出る他、排尿時に痛みを感じることもあります。
亀頭や包皮から白いカスが出たり、患部がカサつくといった症状が出ることも亀頭包皮炎の特徴の一つです。
亀頭包皮炎の種類
亀頭包皮炎は、大きく2つのタイプに分けることができます。
一つはブドウ球菌、大腸菌などの細菌による亀頭包皮炎、もう一つはカビによる亀頭包皮炎です。
また、厳密に言うと亀頭包皮炎ではないのですが、ウイルスによって亀頭包皮に異常をきたしてしまう疾患もあります。
それぞれについて見ていきましょう。
細菌性
ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌などの細菌が原因となるのが細菌性亀頭包皮炎です。
細菌性の亀頭包皮炎では亀頭と包皮が赤く腫れ、患部に触ると痛みがあります。
膿が出たり、排尿時に痛みを感じたりすることもあります。
カンジダ性
カンジタというカビ(真菌)が繁殖して亀頭包皮炎を起こす場合もあります。
カンジタ性の亀頭包皮炎は亀頭患部が赤く腫れ、強いかゆみが出ることがあります。
また、膿によって黄白色にただれたような状態になります。
皮むけが起こりやすくなり、魚の腐敗臭のような臭いが出るといった症状が現れる場合もあります。
ウイルス性
性交渉などによってヘルペスウイルスに感染すると、亀頭と包皮に異常が出てくることがあります。
たとえば性器ヘルペスにかかると、亀頭や包皮にヘルペス特有の水泡が出てきます。
また、性交渉によりヒトパピローマウイルスに感染すると、亀頭や包皮に小さなイボが多数発生する場合があります。
これは尖圭コンジローマと呼ばれる病気です。
医学的には、性器ヘルペスや尖圭コンジローマは亀頭包皮炎には該当しません。
ですが、亀頭包皮が患部になり、炎症を起こすという意味においてウイルス性の亀頭包皮炎として捉えることができます。
亀頭包皮炎の原因
亀頭包皮炎を発症する要因には主に洗いすぎ、包茎、性行為、自慰行為、糖尿病があります。それぞれ見ていきましょう。
洗いすぎ
実は亀頭包皮炎の原因の多くは患部の洗いすぎによるものです。
何らかの炎症が起こった場合、陰部を清潔に保とうとすあまり、ボディーソープなどで強く擦ってしまうと粘膜が傷つき炎症を悪化させてしまいます。
赤みやかゆみといった症状が出た場合でも、患部に刺激は与えないよう水で軽く洗い流す程度にしましょう。
包茎
すでに紹介したとおり、亀頭包皮炎は包茎の人に起こりやすい疾患です。
包茎の亀頭と包皮裏側は、ブドウ球菌やカンジタなどの菌やカビが繁殖するのに好適な環境であるからです。
亀頭包皮炎は子供に発症することが多いという特徴がありますが、これも子供は包皮をめくって亀頭を剥き出しにして汚れを落とすことができにくいからです。
性行為
カンジタ性亀頭包皮炎は性病の一つとしてよく知られています。
性交渉によりカンジタに感染する可能性は低いものの、免疫力が低下しているとかかりやすくなると言われています。
とくに性交渉相手となる女性がカンジタ膣炎にかかっている場合、感染するリスクが高まります。
性交渉後に亀頭や包皮にかゆみや痛みが出てきた場合や、亀頭が赤く腫れたり、白いブツブツやカビなどが出てきたりした場合は、カンジタ性亀頭包皮炎にかかっている可能性があります。
この他、性交渉をするとヘルペスウイルスやヒトパピローマウイルスなどへの感染リスクが高まり、これらのウイルスに感染することで亀頭包皮炎を発症しやすくなります。
自慰行為
手には黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、カンジタ菌といった多くの細菌が付着しています。
こうした雑菌がたくさんついた手で自慰行為を行えば、亀頭及び包皮裏側の粘膜部分にこれらの菌が入り込み亀頭皮膚炎の発症リスクも高まります。
糖尿病
糖尿病を患うと亀頭包皮炎にかかるリスクも高まります。
とくにカンジタ性亀頭包皮炎を発症する患者さんでは、基礎疾患として糖尿病を患っているケースが多く見られます。
糖尿病になると末梢部分への血液循環効率が低下し、これにともない末梢器官の一部である陰茎部(亀頭や包皮)にも栄養が行き届きにくくなります。
そうなると亀頭や包皮を構成する細胞の活力・免疫力が低下し、カンジタ菌増殖及びカンジタ菌の細胞侵入を防ぎきれなくなってしまうのです。
亀頭包皮炎の検査
亀頭包皮炎は通常、亀頭・包皮の見た目から診断されます。
ですが、細菌性の亀頭包皮炎の疑いがある場合には細菌培養検査を行うこともあります。
細菌培養検査とは、皮膚や粘膜部分から恥垢を採取し、原因菌を特定する検査方法です。
亀頭包皮炎の治療
亀頭包皮炎と診断された場合、投薬治療が行われることがほとんどです。
なお、同じ亀頭包皮炎でも細菌性のものとカンジタ性(真菌性)のものとでは使用する薬が違います。
注:雑菌・淋菌は抗生物質、カンジダ菌は抗真菌薬を使います。
細菌性
細菌性の亀頭包皮炎では、内服薬として抗生物質が処方されます。
外用薬としては抗生物質の軟膏及びステロイド軟膏が処方されます。
カンジダ性
カンジタ性の亀頭包皮炎では、外用薬として抗真菌薬やステロイド軟膏が処方されます。
また、内服薬に抗真菌薬が処方されることもあります。
子供でも亀頭包皮炎にかかるの?
亀頭包皮炎は子供にも多く発生する疾患です。
というのも子供は包茎である場合が多く、なおかつ包皮の先端部(包囲輪)の内径が狭くめくりにくいので、亀頭と包皮を洗浄できません。
そのため、侵入した雑菌が繁殖した場合、これを除去することがしにくいのです。
一方で、子供のうちに包茎治療をしないといけない陰茎をもつ子供もいます。
たとえば、包囲輪が非常に狭い子供が排尿をしようとすると、そのたびに陰茎先端に尿がたまり、ふくらんでしまうことから、うまく排尿できません。
そのような子供に対しては、包皮を切開し、亀頭を露出させる包茎治療が行われてきました。
しかし手術には術中事故、術後の感染症リスク、手術による傷跡に対する懸念などがつきものです。
そのため、現在は子供の包茎治療はなるべく手術をしない方向で行うことがスタンダードになってきています。
実際の治療方法としては、手で子供の陰茎の包皮をめくってから亀頭部に抗生剤軟膏やステロイド軟膏などの外用薬を塗布します。
少しずつ包皮を広げるとともに、くっついてしまった亀頭と包皮を剥がしていくというものです。
この治療法の普及により、排尿困難や亀頭包皮炎を繰り返す子供に手術を行うケースは大きく減少しています。
まとめ
亀頭包皮炎にかからないようにするためには亀頭と包皮の清潔を保つことが大切です。
とくに包茎の人は恥垢がたまりやすいので、入浴時にはきちんと洗い流すことを心がけましょう。
もし亀頭包皮炎にかかってしまった場合は、早めに医師の診察を受けて、適切な対処をしましょう。
(参考文献)
小児包茎の治療方針と手術適応 伊藤 泰雄, 韮澤 融司, 薩摩林 恭子, 田中 裕之, 長谷川 景子, 関 信夫 日本臨床外科 医学会雑誌/54 巻 (1993) 3 号/書誌 p. 631-635
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1963/54/3/54_3_631/_article
広島大学大学院医系科学研究科外科学「こどもの包茎はなるべく手術しない」
http://surgery1.hiroshima-u.ac.jp/about/diagnosis/Pediatric/folder5/post-39.html