前立腺がんと診断されたら。

前回、近年増加傾向にある前立腺がんについて、
診断までのお話をしました。
年々増加している「前立腺がん」とは
今回はその後の治療、なかでも薬物療法のうちの
内分泌(ホルモン剤)療法について説明したいと思います。

前立腺がんとは

前立腺がんとは、膀胱のすぐ下にある前立腺という生殖機能に影響のある働きをする
男性特有の器官にできるがんで、そのがん細胞は男性ホルモンの影響を受けて
増殖するといわれています。

前立腺がんの治療の選択

血液検査(PSA)や、針生検、CTなどの検査を経て病期が確定されたのち、
標準治療ガイドラインを中心に、がんの状態や、患者さまの年齢や希望
(10年先どうしていたいか、など)などを考慮し、話し合いの上治療方針が決定されます。

ひとつお話ししておきたいことが、標準治療とは「並の治療」を
意味するものではない、ということです。科学的な根拠に基づいて、
有効性と安全性が十分に証明された現時点での「最良の治療」です。
その標準治療には病期や、がんの悪性度などに応じて
手段がいくつかありますので、患者さまが医師と治療方法を
話し合いで決めていくということになります。

前立腺がんの治療方法

治療方法は大きく次の4つに分類されます。病期などに応じて各治療を組み合わせて行っていきます。

監視療法
比較的おとなしく、がんが前立腺内にとどまっている場合や、症状のない超高齢者の方の選択肢として
適用条件が定められています。
積極的な治療は行わず、定期的な血液検査と生検を実施し経過を観察します。

手術療法
がんが前立腺内にとどまっている局所がんである場合、根治を目指す前立腺全摘術を
行うことができます。前立腺と、隣り合う精嚢を含めすべて摘出し、
尿道と膀胱をつなぎあわせる手術です。現在はロボット支援下手術が主流となっていますが、
開腹術、腹腔鏡下手術もあります。

放射線療法
放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療方法です。体の外から照射する外照射療法と、
放射線を出す小さな線源を前立腺内に挿入して照射する組織内照射療法があります。
いかに放射線を集中させ、周囲の臓器への影響を抑えるかがカギとなります。

薬物療法
前立腺がんの治療において、薬物療法は重要な役割を果たします。
特に転移や再発した場合に中心的な治療となります。
薬物療法には内分泌(ホルモン剤)療法と化学(抗がん剤)療法があります。

当クリニックで前立腺がんの患者さまに主に行う、
薬物療法のなかでも内分泌療法について、さらに紹介していきます。

男性ホルモン依存の前立腺がんに非常に有用な内分泌(ホルモン)療法

前立腺がんの多くは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン、テストステロン)
の影響を受けて増殖するという性質があります。

男性ホルモン分泌のしくみ

視床下部から分泌されるLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は
下垂体にある受容体(レセプター)と結合して
LH(性腺刺激ホルモン)を分泌させ、精巣での男性ホルモン
(テストステロン)の分泌を促します。この男性ホルモンが
前立腺にある受容体と結合することで細胞の増殖が促進されます。
副腎からもアンドロゲン(男性ホルモン)が生成され、一部は
テストステロンの生成材料となります。

前立腺がん細胞の増殖を抑制するための内分泌療法

内分泌療法が適応となるケースは次のとおりです。
A 手術や放射線療法での根治が難しい場合(例えば高齢の方や合併症のある方など)
B がんが進行していたり、転移をしている場合

当クリニックでは、Aに適応する方に前立腺がんの勢いを弱める目的で内分泌療法を行います。
B適応の場合には、基幹病院と相談の上で治療を検討します。

内分泌療法に使用される薬剤のはたらき

内分泌療法に使用される薬剤には次のようなものがあります。

1 精巣あるいは副腎からの男性ホルモンの分泌を抑える方法

LH-RHアゴニスト   LH-RHが下垂体で受容体と結合するのを阻害する薬剤です。
薬剤名:リュープリン ゾラデックス
どちらも皮下注射で、それぞれ1か月/3ヶ月持続型があり、
リュープリンにはさらに6か月持続型のものがあるので
通院回数を抑えたい方の選択肢として考慮されます。

LH-RHアンタゴニスト 下垂体にある受容体を直接阻害する薬剤です
薬剤名:ゴナックス 
腹部への皮下注射になります。

2 前立腺細胞内において受容体をブロックすることで
男性ホルモンの作用発現を抑える方法

抗男性ホルモン(アンドロゲン) 
前立腺細胞内でテストステロンと受容体が結合するのを阻害する薬剤です
薬剤名:ビカルタミド フルタミド プロスタール
経口投与となります。

近年では、1と2の両者を併用することで、より強固に前立腺がんの勢いを弱めることが確認された
CAB療法と呼ばれる方法が多く行われています。

いずれも男性ホルモンの作用に係る薬剤のため、副作用として性欲減退や女性化乳房など
性機能関連の作用がみられることがあります。またほてりや体重増加、
肝機能障害も発現することがありますので、
副作用がつらい場合には医師との相談が大切です。

これらの治療によって男性ホルモンを抑制し、がんの勢いを弱めることに成功していても、
やがて男性ホルモンの供給なしに増殖できる去勢抵抗性前立腺がん
(CRPC)となっていくことがあります。この場合は薬剤を変更して治療を行います。

3 新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI) 

さらにアンドロゲンを強力に抑える新規ホルモン治療剤です、こちらも経口投与になります。
薬剤名:イクスタンジ ザイティガ アーリーダ ニュベクオ

ARSIを適切に使用することで長期的な効果や予後の改善に寄与することが確認されています。

そのため、近年の治療は薬剤の単体使用はもちろん、ホルモン療法とARSIを加えた治療や、
抗がん剤の併用など、治療にも様々な組み合わせがあり、クリニックと基幹病院で
連携を取る治療が重要と考えられています。

前立腺がんは初期段階での発見が大切であると前回お話ししましたが、
治療についても早い段階で男性ホルモン生成の抑制ができれば、
がん細胞の増殖抑制に対するより早い効果が期待できると言えます。

患者さまのライフスタイルや、身体状況をお話しいただくことで、
医師も病状に沿ってさまざまな治療を提案できるようになります。
受け身ではなく、二人三脚の治療を目指していきましょう。